かもめのジョナサン

「そもそも天国などというものは、本当はどこにもないんじゃありませんか?」「その通りだ、ジョナサン、そんなところなどありはせぬ。天国とは、場所ではない。時間でもない。天国とはすなわち、完全なる境地のことなのだから」

(中略)

「よいか、ジョナサン、お前が完全なるスピードに達しえた時なは、お前はまさに天国にとどこうとしておるのだ。そして完全なるスピードというものは、時速千キロで飛ぶことでも、百万キロで飛ぶことでも、また光の速さで飛ぶことでもない。なぜかといえば、どんなに数字が大きくなってもそこには限りがあるからだ。だが、完全なるものは限界をもたぬ。完全なるスピードとは、よいか、それはすなわち、即そこに在る、ということなのだ」
不意にチャンの姿が消えたかと思うと、突然、15メートルほど離れた水際にあらわれた。

(中略)

「神がかりになることはない!」とチャンは言い、そのことを何度もくり返した。
「飛ぶために信心はいらなかったらはずだ。これまでのお前に必要だったのは、飛ぶということを理解することだったではないか。」

(中略)

「そうだ、本当だ!おれは完全なカモメ、無限の可能性をもったカモメとしてここに在る!」

かもめのジョナサン 完成版 (新潮文庫)

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